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【インタビュー前編】 好きなことだけやればいい

【インタビュー前編】 好きなことだけやればいい

―堀場製作所といえば技術系ベンチャーですが、幼い頃からモノ作りに興味があったんですか。

 モノ作りというより、理科系のことが大好きだったね。小学校の頃、放課後になると先生は、僕ら自身が興味のあることを教えてくれた。工作が好きな生徒には工作の先生が工作を教えてくれた。その体験は、非常に貴重だったと思う。

 人生の節々において、素晴らしい先生と巡り合えたっていうことが、僕の人生の幸せなところやね。自分の興味を、自然に引き出してくれる環境があった。

―両親の教育は、どんなだったんですか。

 父親は京都大学の理学博士だった。口うるさくない人だった。完全に自由放任主義。いま思うと、これが非常に良かったよね。親に押しつけられることなく、自然に自分の好きなことに没頭できた。自分が本当に好きなものを見つけることができた。

 でも、反対に母親はうるさかった。まぁ、どこの家庭の母親もそういうもんです。母親は息子をいつも心配するもんです(笑)。だから、僕の両親はうまい具合にバランスがとれていたと思います。

―小学生の頃に、小児リュウマチを患ったとか。

 そうなんですよ。体はあまり強い方ではなくて、今では想像もつきませんが、『蚊トンボ』のような子供でした(笑)。でも、高校ではラグビーをやり始めて、全国優勝するまでに体が強くなった。面白いもんですね。やれば、人間なんとでもなるもんです。

 あとは、病気の静養中に模型作りに熱中しましたね。小さい頃からモノ作りがやっぱり好きだったんでしょうね。戦争中、アマチュア無線を作って、米軍の放送を聴いていたこともありましたよ。むかしから好奇心だけは非常に強かったですね。

―その後、京都大学の物理学科に進学されるわけですが、周りからは反対の声が多かったようですね。

 ええ(笑)。私がやりたかったのは、物理学の中でも、原子核物理という分野だったんですが、就職がないからと、高校の物理の先生までもが反対する始末でした。でも京都大学のその学科に好きな先生がいて、「好きやったら、やっていける」と思いましてね。それで進学することにしたんです。

 当時、原子核なんていうのは、あまり知られていない学問だった。案の定、そのクラスには偏屈者も多かった。でも、「まぁ、なんとかなるわ」と。繰り返しになりますが、いつもそんな考えでしたね。

―では、大学入学前は起業しようとは考えていなかったんですか。

 そうですね。華々しくベンチャービジネスやります、なんていう気は毛頭ありませんでした。ただ、父親が研究者だった影響もあって、普通にサラリーマンになろうなんていう気も全くなかった。できれば大学に残りたいという気持ちが一番強かったですかね。

―在学中に起業したわけですが、その起業の経緯を教えてください。

 それは、そんな大した話ではないんですよ。日本が敗戦で負けて、原子核の実験装置がことごとく壊されてしまった。それで戦時中、満足に出来ていなかった実験が、さらに出来なくなってしまったんです。実験装置がないから、大学に行ってもしょうがない。かといって家でゴロゴロしていたって、なおしょうがない。

 それならば何か自分で好きなことをやらなければと思いましてね。それで電気仕掛けが好きでしたから、電気や電子に関係することを仕事にしようと。そして、「堀場無線研究所」というのを作ったんですよ。それが今日の発端ですね。

―起業して、いちばん大きな挫折といったら何でしょうか。

 それは色々あるんですが、創業間もない頃の挫折は大きかったですね。僕はモノ作りの仕事ですから、多くの部品を使います。最近ではIC(集積回路)の中にたくさん機能や能力が入っていますが、その当時は一つの機能しか持たない部品を、いくつか組み合わせなければならなかった。その部品が一つでも悪いと、他が全滅してしまう。

 最初はどの部品が悪いのか分からずに、たいへん苦労しました。でも、よくよく注意深く調べてみると、一つの部品が原因だったなんていうことが頻繁にあったんです。やはり全部が上手く機能するためには、一つ一つがしっかりしてないと駄目だと。そんなことは当たり前のことなんですが、なかなか気づきませんでした。

 物事は、なんでもそうだと思います。最初から自分のやりたいことなんて、なかなか出来ない。やりたいことをやるためには、最初のうちは違うこともしなくてはいけない。結局、一つ一つを丁寧にこなしていくしかないんです。

―逆に、起業していちばん良かったと思うことは何でしょうか。

 もちろん良かったことも沢山あります(笑)。その中でも一つだけあげるとすれば、自分の好きなことに一生たずさわることが出来るということですかね。

 仕事というのは、人生の中ですごく大きな比重を占めているんです。人それぞれ差こそあれ、ホントに大きな比重を占めています。僕に至っては、仕事が人生の8割、9割を占めています。そんなに多くの時間とエネルギーを費やすものがつまらないとしたら、そんな悲しいことはないと思います。

 堀場のモットーは、『おもしろおかしく!』。人生を有意義に送ろうと思うなら、起業という選択肢も大いにアリだと思いますよ。