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日本メーカーの凋落を教訓にシンプル・イズ・ベストを追究

―「LINE」は日本で開発されました。日本ならではの強みが活かされている点があれば教えてください。

おもに2つあると思います。ひとつは、モバイル端末におけるサービスについて、世界でいちばん豊富な経験をもつこと。ケータイでメールや画像をやりとりするカルチャーが、世界でいちばん早く始まった。スマホ登場以前から、モバイル端末で本を読むサービスが普及していたのは、日本ぐらいなもの。

それは「ガラパゴス」といわれ、日本のなかだけでの進化でした。でも、そのおかげでスマホ向けサービスを開発するにあたり、応用可能なコンテンツやビジネスモデルを豊富にもっていた。「LINE」の開発チームにもケータイ向けサービスを開発した経験がある人材がいて、その技術を活かすことができました。

もうひとつは、世界でも評価の高い、洗練されたコンテンツづくりのノウハウ。ユーザーから圧倒的に支持されている「スタンプ」は、それがあったからこそ開発できたのです。

―開発にあたって、とくに心がけたことはなんですか。

あれもこれもと、機能を盛りこみすぎないことですね。開発チームでは「できるだけシンプルに」を合言葉にしていました。機能は最小限に。画面のデザインも簡素で見やすいものに。情報が次から次へと送られてくるツールだからこそ、わかりやすく整理されたカタチで情報を閲覧できなくてはいけないからです。

日本は戦後、ハードウェアの技術革新によって経済発展を遂げました。その成功体験が忘れられず、ソフトウェアの分野でも技術的にできる機能はなんでも盛りこんでしまうようになった。それがかえってユーザーにとって複雑で、使いにくいものになっている例がたくさんある。日本のモノづくりが凋落してしまった一因だと思います。その二の舞にならないよう、「LINE」はシンプルさを追求したのです。

―森川さんが開発の陣頭指揮をとったのですか。

いいえ。チームメンバーにまかせていました。そもそも当社では、トップダウンによって社員の目標を決めたり、タスクを割り振ることはないんです。ユーザーにいちばん近いところにいるのは現場の社員。彼らがニーズを把握し、それにこたえるサービスを開発する。トップをはじめ経営陣はそれをサポートする立場だというのが、当社の考え方です。

プロジェクトチームのなかでの役割分担も流動的。仕事は与えられるものではなく、とりにいくもの。職種や役職は一応ありますが、エンジニアが企画職をさしおいて商品企画を立てたり、入社1年目の社員がリーダーを押しのけてメンバーに指示を出すこともある。

それがユーザーニーズを満たすためによい役割分担であるなら、いっこうにかまわないというのが当社のカルチャー。「これはオレの仕事だ」とか「オマエは役職が下なんだから口を出すな」という態度の社員がいたら、当社に長くは留まれないでしょうね。

―統制のとれない組織になってしまう心配はありませんか。

上からの統制なんて、必要ないんです。私のいうことを聞かない社員もたくさんいますよ(笑)。ただし、「ユーザーの満足」という全社目標は共有しています。職種や役職に関係なく、ユーザーのニーズにこたえられる能力がある人間が主導権をとる。ルールはこれだけ。

たとえるなら、サッカーチームのような組織かもしれません。フォワード、ディフェンダー、ゴールキーパーといったポジションはある。でも、シュートを打つのはフォワードだけじゃない。ディフェンダーが打ってもいいし、状況によってはゴールキーパーが前線にあがってシュートを放ってもいいんです。試合に勝つことがチーム全体の目標なんだから、当たり前ですよね。

―森川さんは2007年に社長に就任しました。そのときから、そうした組織論をもっていたのですか。

いいえ。試行錯誤の結果、現在の組織にいきついたのです。トップに就任して間もないころは、私が先頭に立って新事業を企画していました。

そのうちのひとつがゲームカフェの運営。東京・原宿に、1杯100円のコーヒー代だけでオンラインゲームが楽しめるお店を出しました。おしゃれな土地に出店することでオンラインゲームのイメージアップをねらった。でも、来店者は多かったが、想定したビジネスモデルが成り立たない。すぐに店じまいすることになりました。オンラインゲームの客層と原宿の客層が違いすぎたのが原因です。

この苦い経験から、トップダウンではユーザーのニーズからかけ離れた決定を下してしまう危険があると痛感したのです。それからは現場にまかせるスタイルに変えました。