
国内最大のスナック菓子メーカー、カルビー。1949年の設立以来、「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」をはじめ、数々のヒット商品を生み出し続けている。しかし、近年は少子化による市場縮小や競合企業の台頭により、業績が伸び悩んでいた。そこで創業家より招聘されたのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの経営トップを15年間務めた松本晃氏である。2009年にカルビーの代表取締役会長兼CEOに就任後、現在まで5期連続の増収増益を達成。老舗企業を再び成長軌道に乗せている。その秘密はどこにあるのか。グローバル化のポイント、経営者の条件などもまじえて話を聞いた。
縮小する成熟市場で5期連続の増収増益を実現させたリーダー
―経営トップに就任以来、なぜ増収増益を続けることができたのですか。
カルビーという会社にポテンシャルがあったからです。私はそれをちょっと引き出しただけ。だから、5期連続の増収増益はなんでもないこと。少なくとも、あと30年は続けないといけません。
―国内市場は縮小傾向にあり、競合企業もひしめきあっています。どのようなアプローチで打ち手を考えたのでしょう。
まず業績が低迷している原因を人に求めず、仕組みに着目しました。前任者を否定して人事を刷新する経営者もいますが、なんの意味もありません。
最近は仕組みをくわしく説明するのが面倒になって「集中購買でコストを下げました」なんて言っていますが、はじめから理屈を組み立てていました。それにそって、当たり前のことを粛々と実行しているだけですよ。
みんな頭が良すぎるから、経営を複雑にしてしまう。すると、理屈を従業員が理解できず、戦略を実行できません。だから、私みたいに“中の上”くらいの頭が経営者に向いているんです。理屈をシンプルにすると、従業員が納得してついてきてくれます。
―増収増益を実現させた仕組みについて、具体的に教えてください。
まず集中購買によって、単価を下げたり、ムダな購入を減らします。購買コストが下がれば利益が出ますが、すぐにとりこんではいけません。コストを下げたら、商品価格を下げてお客さんに還元するんです。
すると市場シェアが上がり、工場の稼働率が上がる。稼働率が上がると、固定費が下がる。その利益は自社にとりこむ。簡単な理屈ですよ。
―工場の稼働率を上げれば、利益率も上がるわけですね。
稼働率と固定費の相関関係をみなさん意外とわかっていないようです。たいてい変動費をいじりたがります。
もともとカルビーは営業利益率が1.4%~2%と低い体質でした。目標は食品企業の世界標準15%ですが、いっぺんに上げるのはムリ。まずは10%を目標にして、それを達成する方法を考えたのです。
もし目標まで30%離れていたら、すべての工場をフル稼働しても足りません。目標が10%だからこそ、この手法を実行しました。じつに帰納的でシンプルな思考法です。
―目標をひとつにしぼったこともポイントですね。
ええ。アレもコレもと指示したら、従業員が混乱します。だから、いちばん大事な利益にしぼる。なかでも営業利益率がわかりやすいでしょう。
カルビーも一時期は「コックピット経営」なるものをやっていました。事業ユニットごとの膨大な数値データをグラフ化して毎週更新。全従業員に共有して、さまざまな判断に活かす手法です。理論的には間違っていませんが、複雑すぎます。ジェット機内のようなたくさんの計器は読めません。
いまは指標を減らした「ダッシュボード」に変えました。車のダッシュボードは計器が少ないですよね。ドライバーが確認しているのは、スピードメーターとガソリンの量くらいです。