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京セラ株式会社

【インタビュー後編】 起業家の心構え

―最近の学生を見て、何を思われますか。昔の学生とどこが違いますか。

少し一般的な話になりますが、今の学生はみな豊かな時代に育ってきたので、あまり苦労というものを経験しておられないのだろうと思います。

昔の子供は貧しい生活のなかで、欲しいものがあっても我慢し、遊びたい気持ちを抑えて家の仕事を手伝うなかで、苦労に耐える精神力を培ったものでした。

最近では、我慢することを学ばず、甘やかされて育ったがゆえに、社会で信じられないような悪をなしている若者もいます。

また、経済的に豊かになったいまの日本では、一生懸命働かなくても普通の生活はできるようになりました。そのため、定職について日がな働くよりも、働きたいときに働けばいい、つまりフリーターでもいい、という若者が増えていますが、私はこれを大きな問題だと捉えています。

自由が当たり前となった世界に生きていながら、現代の若者はみな自由の真の意味を理解していないのだと思います。自分でその道を選んでいながら、「こんなはずじゃなかった」と後悔している人も少なくないはずです。多くの選択肢のなかで自分が選んだ生き方であれば、その結果はどのようなものであろうと受け入れなくてはなりません。このことをよく肝に銘じて、人生を歩んでいかれるべきだと思います。

―今のベンチャー経営者、特にITベンチャーの経営者について、どう思われますか?

金儲けを目的として、安易に起業をする人が増えていることに不安と憂いを感じています。現在のITベンチャーは、確固たる目的、万人に受け入れられる経営理念のようなものがないことが多い。このような危うい経営では、長続きするはずがありません。

―日本は起業家を目指す学生がアメリカなどに比べて統計的に少ないですが、このことについて、稲盛名誉会長はどう思われますか。また、なぜ日本の学生は起業家を目指す人が少ないのでしょうか。できれば、名誉会長の解決策なども教えて下さい。

まず、構造的な問題として、日本にはベンチャーを生み出す環境が整っていないことがあげられます。若い世代の皆さんは、ビジネスに関してたいへん豊かなアイデアをお持ちです。しかし、規制があまりにも多くて、ベンチャーを起こせない。まずはこの規制緩和が、日本経済の活性化のための最重要課題だと考えます。

また、「寄らば大樹」の日本社会では、中小企業家、ベンチャー経営者に良いイメージを持つ人が少ないことも問題です。大企業で働いていること、あるいは官僚や公務員という肩書きの方が、ステータスが高いわけです。

しかし、日本経済を支えているのは多くの中小企業なのですから、私たちはベンチャーの価値をよく理解し、ベンチャーを育む社会をつくっていかなければならないと思います。

―起業を志すなら、このことだけは肝に銘じておいた方が良い、ということを教えて下さい。

今後、より多くのベンチャー企業が輩出し、停滞している日本経済を活性化させてくれることを願っていますが、ベンチャーとは決して容易なことではありません。企業経営とは、長丁場の苦しい戦いです。そのなかで、緊張感を絶やさず、大胆に、そして慎重に経営を進める。これが真のベンチャーの姿なのです。

ですから、事業の理念や目的を明確にし、事業をスタートさせたら、後は何があっても決してひかないという覚悟で、歯を食いしばって、前向きに、明るく、誰にも負けない努力を続けなければいけません。それができる人でなければ、ベンチャーにチャレンジしてはならないと私は思います。

―起業家にとって必要な資質とはいかなるものでしょうか。

「燃えるような情熱、強い意志を持っていること」。「誠実で前向きであること」。「独創性と緻密さを合わせ持っていること」。「大義名分を目的として明確に打ち出せること」。

そして、忘れてはならないのは、常に慎重に経営を行い、謙虚な姿勢を失わないこと。たとえ大きな成功を収めたとしても、世の中というのは自分の思うようにはいかないものです。事業がうまくいったら、なおのこと世の中を恐れ、謙虚にならなければいけません。

事業というのは正直なもので、やり方がまずいと絶対に長くは続きません。ベンチャービジネス成功の可否は、経営者自身の資質や考え方にかかっているのです。

―最後に、起業家を目指す学生に向けて、メッセージをお願いいたします。

東証マザーズやヘラクレス(旧ナスダック・ジャパン)などが創設され、ベンチャー育成をめざす日本にとって、好ましい環境がようやく整いつつあります。ベンチャービジネスに挑戦する人たちがたくさん出てくることは、日本全体の経済発展に大きな影響を及ぼすはずです。

学生の皆さんも、ぜひチャンスを生かし、ベンチャーに果敢にチャレンジしてください。そして、ベンチャービジネスが高い評価を受け、尊敬を得られるような社会を、ぜひ作っていっていただきたいと思います。これは、ベンチャービジネスの先輩としての切なる願いです。

■主な著書
『不況を乗り切る5つの方策~いま、何をすべきか~』(サンマーク出版)
『いま、「生き方」を問う③~幸せな人生をおくるために~』(サンマーク出版)
『働き方』(三笠書房)
『アメーバ経営』(日本経済新聞出版社)
『人生の王道』(日経BP社)
『実学・経営問答 人を生かす』(日本経済新聞出版社)
『稲盛和夫の実学』(日本経済新聞出版社)

プロフィール

稲盛 和夫(いなもり かずお)

企業情報

設立 1959年4月
資本金 115,703百万円 (2014年3月期)
従業員数 69,789名 (持分法適用子会社、持分法適用関連会社は除く。2014年3月31日現在)
URL http://www.kyocera.co.jp/