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新興金型工業株式会社

タイヤメーカーの子会社や出資会社が勢力をもつタイヤ金型業界にあって、ニーズを先取りした開発力を強みに国内主要メーカー全社と取引する新興金型工業。2012年にはタイ工場の操業を開始し、“SHINKO MOLD”ブランド確立に向けた一歩を踏み出した。そんな同社もリーマンショック時はその影響を避けられ ず、業績が最盛期の半分にまで落ち込んだという。そんな日本経済の低迷期に先代から経営を引き継ぎ、V字回復を実現したのが現在の代表・中村氏だ。同氏のモノづくりや社員に対する想いを聞いた。


―事業内容を教えてください。

 弊社の主事業は、売上の約8割を占めるタイヤ製造用金型の製造です。製造だけではなく補修やリペアも行っています。残りの約2割は産業用ゴム金型の製作と一般機械の切削加工です。2012年にはタイ工場を開設し、現在2拠点体制で生産しています。

 特長は国内主要タイヤメーカー全社と取引していることです。タイヤ金型業界は、タイヤメーカーの子会社か出資会社、あるいは資本関係はなくても1社とだけ取引する会社がほとんどです。複数メーカーと取引している会社は、全国でも数社のみです。

 そのような構造の中で競争力を確保するために弊社が取り組んでいるのが開発力の強化と、情報のセキュリティ対策です。ご注文いただいた金型を図面通りに作るだけではなく、金型を使っている現場に足を運んで話を聞き、ニーズを先取りして、お客様のタイヤ生産を効率化するための提案を行っています。社内に開発部を設けて体制を整えていることは、競合他社にはない強みだと自負しています。また、取引先も大手が中心なので、当然、私達も企業内の機密情報の管理を強く求められます。選ばれ続ける為の努力は常に緊張感を持ってやっていますね

―2012年にタイ工場を開設したとのことですが、タイ工場の役割を教えて下さい。

 タイ工場では、現地に進出している日本のタイヤメーカーに向けた金型製造を行っています。日本国内向けだけではなく、現地向けに生産しているタイヤの金型も製造しています。今後は東南アジア全体の市場拡大が見込まれます。道路事情や交通量など日本国内とは違う現地の事情やニーズに合わせたタイヤ作りを、弊社の開発力でサポートし、メイドインジャパンの底力を示していきたいと考えています。

―海外進出を決断した理由と、進出先にタイを選んだ理由は何ですか。

 海外進出を決断した最大の理由は、ビジネスチャンスを増やすことでした。タイヤ金型の生産拠点は、リーマンショック以前から中国、韓国などのアジア圏に移っており、国内におけるビジネスチャンスは減少していました。モノづくりは、量をより多く作った方が作るスピードが速まり、コスト競争力が高まります。我々がそのためのチャンスを得るには、海外進出が必要でした。

 またメイドインジャパンの技術をきちんと残して、世界に広めたいと考えたことも1つの理由です。私が社長に就任したのはリーマンショックの直後で、モノづくりが日本から消えかけた状況でした。一方で中国や韓国の製造業に目を向けると、量産の技術では日本を凌ぐ存在となっていました。自分たちのモノづくりをもう一度見直さないと、日本の勝ち目は本当になくなると危機感を持ちました。

 進出先を決める際、当初は中国を検討しましたが、政治の不安定さに加えて土地が買えないといった条件面もあり、成長著しいASEANに着目しました。タイは当時から東南アジアのハブ的な存在だったため、ビジネスチャンスを掴むには最適な国だと判断しました。