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途上国の開発には、ODAと民間企業の両側面からアプローチが必要

―海外進出を成功させるために、経営者が理解しておくべきポイントはありますか。

 周知の通り、開発途上国でのビジネスは不確実性が高い。事前に緻密な経営計画を練ったとしても、その通りに進まないことが多いんです。また、現地の市場調査に時間をかけている間、外国企業が進出して先を越されてしまうことも少なくありません。時と場合によっては、事業計画の正確さよりも、迅速性とどんな壁を打ち破ってでも進出を成功させるという強い想いが何よりも大事になります。

 なお、特定の1ヶ国に進出を絞っている場合は話が変わりますが、全世界で見れば、海外進出に成功・失敗しやすいなどの業種はないと思っています。日本を代表するような特別な技術でなくとも、市場が成長の途上でまだ競争の厳しくないセクターのあるアフリカの国々やバングラデシュに目を向ければ、日本では当たり前のサービスや技術を必要としているケースは日常茶飯事です。つまり、突き抜けた競争力がなくても、海外で戦う強い想いがあれば、海外で成功する可能性は充分にあると思います。大きな設備投資やバイリンガル人材がなくとも、最小限のコストで海外進出を実現できる仕組みは多々ありますので、ざっくばらんに相談してもらえたら嬉しいですね。

―多田社長のご経歴を教えてもらえますか。 

 私は元々自然が好きで、大学では生物学を学んでいました。卒業後は水族館の飼育員や、タイでのダイビングインストラクターを経て、青年海外協力隊としてバリ島で自然保護活用に取り組むように。そこで1つの疑問が生まれました。私たちが環境保護の最善策を考えている中、現地の方たちはダイナマイトを川に投げ込んで漁をするダイナマイトフィッシングで短期的な利益を得ていたのです。NGOなどが注意しても、彼らの耳には届きません。立場の違いですよね。彼らからしてみれば、数十年後の資源管理よりも、家族を守るために必要な明日の食事の方が大切なのですから。その時、環境を守るためには、そこにいる人たちの生活も守っていかなければならない。その仕組みづくりが何よりも重要なのだと痛感したのです。

―なるほど。それでアイ・シー・ネットに入社されたのですね。

 はい。現地の人々と環境問題の両面を守れるような仕事がないかと探していたところ、アイ・シー・ネット株式会社と出会いました。そこから仕事に没頭しましたね。国家予算を預かり、3~5億円規模の開発に数多く携わる中でノウハウを学び続けました。紛争復興、教育、保健のプロジェクトなど。日本は世界有数のODA大国と言われていますが、本当に意義のある開発を途上国で実施しています。ODAでしか手をつけられない分野はたくさんあり、現地の生活を守りながら、次の10年や50年を見据えた問題に取り組み続けています。これらのプロジェクトに多く携わらせていただいている私たちは本当に幸せ者ですね。

ただ、もう一方で、農業や漁業などの産業に繋がる部分では、政府ではなく民間でアプローチした方が効果的なこともあると気付きました。実際、現在の多くの開発途上国では開発に使われる資金を紐解くと、ODA事業より民間資金のほうが多くなっています。つまり、社会の変革に寄与するためにも、ODAに加えて国家のボーダーラインを超えた民間企業の支援をすることで、政府と民間、両方からのアプローチができ、私たちが目指している途上国の本質的な開発に寄与できるのです。

―ありがとうございます。最後に今後のビジョンを教えてください。

新興国のGDPは、この20年間で5倍以上も劇的に拡大している国もあります。フィリピンでもカンボジアでもバングラデシュでも、道路の至るところに高級車は走っていますし、ショッピングモールでは数多くのお金持ちが莫大な買い物をしている日常があります。アジア一つとっても、10年前、いや、5年前に渡航したことがあるだけでは何も語れない時代に突入したのです。

 高齢化・人口減少でマーケットが縮まり続けることが明白な日本と比べ、少し目を外に向ければ年率5~7%で成長続ける国々がたくさんあるのです。ノウハウや技術はあるが、マーケットが限られて成長が鈍化している日本企業。マーケットの成長性は確実に見込めるものの、民間企業の力が追い付いていない途上国。この2つの親和性は非常に高い。突出した武器がなかったとしても、日本企業が海外で成功するビジネスチャンスは本当に数多く存在します。

 だからこそ、その橋渡し役を私たちが担い、双方の発展に挑戦し続けていきたいと思います。私たちが培ってきた経験値などを惜しみなく共有・提供させていただき、1社でも多くの日本企業に、1ヶ国でも多くの国々に、喜んでいただけるような取り組みを実現し続けたいと考えています。

プロフィール

1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部を卒業。水族館の飼育員として勤務後、タイでのダイビングインストラクターを経て、インドネシアのバリ島で青年海外協力隊として国立公園のエコツーリズム開発に従事し、2005年4月にアイ・シー・ネット株式会社へ入社。国際協力分野の開発コンサルタントとして、沿岸資源管理・復興支援・教育・保健・産業開発など、20ヶ国以上でコンサルティング業務を実施。2014年10月より、同社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。

企業情報

設立 1993年10月1日
資本金 7000万円
従業員数 150名(2016年6月1日現在)
事業内容 海外事業にかかわる総合コンサルティング業務
人材育成事業
URL http://www.icnet.co.jp

information

URL http://www.icnet.co.jp